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海月の駄文が公開されます。 子猫の淹れた珈琲を飲みながらどうぞ。。
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知らない男が私の名前を呼んで、静かに微笑んでいた。
自信と確信に満ち溢れた落ち着いた笑顔。
誰にも拒絶された事がない人間特有の、親しみを感じさせる微笑。
その完璧な笑みが、私の記憶の何処かに引っ掛かっている。
しかし、上手く思い出せない。
彼は、一体…。


「誰ですか?」
私は開口一番、冷たい声で言い放った。
言葉にした途端、自分でもよくそんな冷たい声が出せるものだ、と驚いた。
そのぐらい私は『外』と接していなかったのだろう。
加減がいまいち認識出来ていない。

しかし、男は事務的な人間と話すことに慣れているのか、
それともただ単に、私の冷えた声など意識していないのか
そんな私の態度を軽くかわし、余裕を見せながら、
「…元クラスメート」と笑顔を崩さずに答えた。

あくまでも自分が優位に立ちたい。
そういうつもりなのだろうか。
嫌なヤツだ、と眉を顰める。
私はキッと彼を睨み付けた。

そんな私の脆弱な抵抗も、男の前には形無しだった。
彼は飄々と私の視線を受け流し微笑んだ。
つぃ、と眼鏡を持ち上げる仕草をして、
風を運ぶ窓に視線を向け、ゆっくりと口を開いた。

「…さっき、窓を見ていましたね」

男の言葉に頷き、私も同じように窓にフォーカスを合わせる。
「それが何か?」

「冷たい風です。何故お閉めにならないのか、と思いましてね」

「あなたの提示した条件では?」
私は軽く目を瞑り、またもや冷たい声で応じる。

え? と声があがった。
男が振り向き、驚いたように目を瞬いた。
「僕の? いや、どうして?」

その言葉に、今度は私が驚いた。
「あなたじゃない? だったらあなたは誰だって言うの?」

男は、私の疑問にああと応えて佇まいを直し、深く一礼した。
「どうも、ご挨拶が遅れまして。
元クラスメートの鏑木悠介と申します」

その名前は、
嘗ての記憶と照らし合わせてみても、
まったく聞いた事の無い名前だった。
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